夕方から夜にさしかかる頃、買い物に出かけようと外に出た。
昼より湿気が増したようで、蒸し暑かった。
歩いてしばらくすると、雨が降り始めた。
小雨程度なら傘がなくても、と思ったが、2秒おきくらいに強さが増していき、え、と思う間もなく、いよいよ、バケツをひっくり返したような土砂降りになった。(ひゃぁー!)
とっさに、近くの民家の玄関下に逃げこんだ。
ふぅと息をつこうとした瞬間、雨が吹き込んでくる。
やばいやばい。
斜めに強烈に降る雨から、垂直に降る少し弱まった雨を見て、
ふうと息をつく。
この雨、あとどれくらい続くかなぁ。
玄関下にいつまでもいるわけにもいかないなぁと、少し中に目を向けてみる。
何分か経ったころ、玄関が明るくなった。
あ、家の人に見つかっちゃった。
そしたら、中から、傘を持ったおじさん(初老の方)が、
「これ使ってください。
突然の雨だからねぇ。」と
傘を渡してくれた。
私はびっくりした。
「え!!あ、、ありがとうございます!
あぁ、、ありがとうございます!」
おいちゃんの後ろには、そっと様子を見るおばさんもちらっと見えた。
私は傘を受け取り、
早歩きで家に向かった。
雨の中、大きな水たまりをいくつも避けながら、
“あったかい…”
と心の中でつぶやいていた。
映画「男はつらいよ」の寅さんが隣で黙ってうんうん、とうなずいているようだった。
家に着くと、涙が出た。
おいちゃん、私に何も聞かず、
私がどういう人か分からないのに、
傘を持って玄関を開けたんだ。
最近涙もろくなったのであるが、
突然の大雨とともに、
なんだか、こころが洗われた気がした。
おいちゃんの顔と、おばさんの姿が、何度も浮かんでくる。
…
こういう感覚が、
ほんとうに、響いてたまらない。
今日はお礼を言いにおいちゃんとおばさんちに行く。
傘をお返しするのが楽しみだ。
いい時間が、あなたに、あなたの大切な人に、ありますように。